プライドを中心とした空前の格闘技ブーム以前で大晦日での格闘技中継も無く、UFCやK-1、グレイシー柔術もコアなファン以外誰も知らなかった昔に聞いた話です。
道場でのクラスも中盤を過ぎた頃、細身でスーツを着た少し白髪まじりの男性が入ってきました。
茶帯を巻いた道着に着替え、軽くウォーミングアップをすませると、終盤を迎えたクラスではスパーリング(乱取り)が始まっており、男性もその輪に加わります。
屈強な男たちが激しく格闘しあうマットの上でのその男性は、紳士然とした風貌からは考えられない、びっくりするような強さを持っていました。
若く大きな体の相手をコントロールし、圧倒していきます。まいったの意思表示のタップを次々に奪っていきます。
そして3本のスパーリングを終えてひとしきり仲間と談笑した後、またスーツ姿に戻りアカデミーを後にします。
「ブラジリアン柔術は自分のライフワークであり人生だ、ずっと続けていく」
まだ20代の若者であった私には、この話はとにかくあまりにも格好が良すぎました。
格闘技等の世界チャンピオンになれる素養は100%無くプロとしてそれで食べていくなど考えることも出来ませんでしたが、とにかく強くなりたいという想いだけ練習していた私にひとつの道筋ができたような気がしました。
この人のようになろう、この人のように歳をとっていこうと。
「ブラジルにはこんな人はたくさんいるんだよ」
黒帯そして本場であるブラジルへのあこがれで私の頭の中はもうパンパンに膨れ上がってしまいました。
それから20年近くの時間が流れ、私も白髪がまじるようになりました。練習を今も続けています 若者にもあんまり負けません。
腰には黒帯をまいて、この神戸に柔専館という練習を続ける場所があり、そこはあの男性のような人がたくさん集う場所になりました。
幼い頃の夢は何一つ叶うことはありませんでしたが、格闘技に強くなりたいという思いブラジリアン柔術だけは形になり、継続することができています。
格闘技の神様に少しだけ愛されていたのかもしれません。
そして、今の夢です。
「地元である神戸のこの柔専館で一生練習し続ける」
私事ながら最後まで読んで頂けた方、とてもありがたく思います。
もしこんな話が好きな方は、仲間として一緒に練習し続けていけたらと思います。
そして友人として一緒にお酒を飲めたらな、と思います。
柔専館代表 宮本泰弘